January 06, 2009

構造デザイン by 内藤廣

明けましておめでとうございます。今年は平穏で、緩く上り坂の1年になりますように。
健康でいさえすれば、なんとかなりますよね。

book

お正月は実家に1冊しか本を持って帰っていなかったので、読んだのはこれだけ。でも珍しく途中で飽きずに読了しました。

わたしは今現代の建築家(建築の世界で「現代建築」というと「モダニズム」、つまり20世紀前半を指すことが多いので非常に紛らわしいけれども)では余り好きな建築家がいないのですが、内藤さんは日本人でかつ活躍中のなかで好きな建築家のひとり。人間的にも魅力的な方だと思います。

建物の材料と構造と意匠とが全く自然に、まるで初めから他の解はないかのように巧妙に組合わさった建物を設計する建築家です。そして、その材料や工法を採用するにあたっては、ただ流行だからとか見た目がいいからといった理由よりはむしろ、社会的なインパクトを常に考えているように見えます。そういった姿勢を含めて素敵だと思います。若い頃スペインで修行した影響か、どこかカラッとした明るいデザインがこの建築家の好みのように思います。

前置きはこの辺にして。これは内藤さんが東大で担当されている土木学科の講義内容をリライトした本です。「構造デザイン」は英語にするとStructural Design、普通にある言葉に思えますが、本来「構造」と「デザイン」はまったく関係の無いもの、と内藤さんは冒頭で書いています。「構造」は土木、「デザイン」は建築、といった縦割りの世界。その囲いを破壊して、その中間の部分を何となく感覚で掴もうという意図のようです。構造を担当していてもデザイナーの想像力、デザインをしていても基本的な構造の知識が必要。なぜなら、「単純に構造を解析するだけなら自動的にコンピューターで答えが出せる時代」には、「構造、力、材料などに対して、エンジニアがいかに豊かなイメージを持てるかどうか」が極めて大切だから。「物質や自然現象に対する恐れ、システムに対する危惧、人間が考えることの限界」にたいして今のエンジニア、デザイナー(そして私たちも皆だと思うけど)たちが鈍感になっているのではないか、そんな問題意識があります。ここでは構造物/建築物の材料と工法の範囲だけれども、昔の人が経験知として体得していた「そんな感じ」(つまりイマジネーション)を育てる訓練をするべき、ということを講義の目的にしています。

実際の講義は「組積造」「スティール」「コンクリート」「PC」「木造」それぞれについて、歴史や工法、過去にどんな事故があったか、今後どのようなアプリケーションの可能性があるか、といった内容で各回構成されています。知っていたこともあったし、でも多くが初めて知る内容でした。ただね、確かに今の私は全く建築と関係のない仕事をしていますが、全部身近にある工法なのでそれくらい知っておいてもいいと思うんですよ。どんな風に構造ができているのか、どんなところにお金が掛かるのか。この材料ではどんなことができて、何ができないか。じゃないと、悪いデザインいたいして文句も言えません。

冷静に考えてみて私が最近こんなに建築の本ばかり読んでいるのは、建築の何が良くて何が良くないのか、自分なりの手がかりが欲しいと思っているからのようです(って他人事のように言ってみる)。どうも私の価値観が今の世の中に合っていないのか、なにかしっくりこない。

でも内藤さんも同じように感じているんだな、と思って少し安心した。今は材料や構造の技術がどんどん進化して、人間が思い描くデザインは殆ど(予算以外は)制約無く実現できる時代になっているようです。なんでも出来るからこそ建築家が混乱して迷子になっているようだ、と、言い回しは違うけどそんな風に言っています。わたしも全く賛成です。

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