January 18, 2012

これからのライフスタイルかな

猪谷六合雄さんの「雪に生きる」を読み終わりました。
原書を青少年向けにダイジェストにした岩波文庫版。夢中で読んでしまって、あとで勿体無かったなあと思いました。こんなに面白いなら、ダイジェストじゃない方で読みたかった。でも図書館にもないし、絶版で手にはいらない。残念。何故なら子供向けなので、不都合や大変だった部分は削除されているようで。最初の結婚のことは何も書いていないのに、突然成人した子供が出て来たり。いつかフルバージョンで読みたい。

それはさておき。
なにが面白いっていうと、とにかく寝ても覚めてもスキーに打ち込んだ人生。滑り方も道具も教えてくれる人がいない中で、少ない情報源(たまたま巡り合った人に聞いた、やっと手に入れた本を隅から隅まで熟読)から工夫に工夫を重ねて自分のものにしていく過程。最初のスキー板は、その辺にあった板をお風呂に漬けてみたり蒸気を当ててみたり、何とか先を曲げて皮などで靴を固定して、適当な竿をストック代わりに、といった具合です。そこから10年も20年も板を工夫し、留め金を工夫し、ワックスを工夫しウェアを工夫し。すべて「より良いものを探す」のではなくて、「自分で改良する」人生です。

先日ブログで紹介した靴下にしてもそう。そして、小屋。

赤城山から千島、再び赤城山に戻って乗鞍。そのあと土樽。などなど。引っ越すたび、またその間に火事になったりして、引っ越した回数以上に小屋を作っています。そう、まったくのゼロから。最初の頃はそれでも大工さんにある程度手伝ってもらったりしていたようですが、段々材料の調達(つまり、木を切り出す)からノコギリを研ぐことから、穴を掘って土台を作って、床を葺いて、と本当にすべて自分で作っちゃうのです。家族は本人と小柄な奥様と、(本に出てくる部分ではまだ小さい)子供の千春さん。家を建てるあいだ仮住まいならまだ良い方で、テントで生活していたときもあり、幼少の頃からそんな生活をしていたなんて想像できないですが。
家の図面を見ると、当時からガラス張りの見晴らしのいい浴室や、暖炉を中心に皆で寛げるリビングなどとてもモダンな家の造りでした。そして隅々まで工夫の凝らされた。
一生のうちにこの人は何軒、電動の機械もない時代に自分の手で家を建てたのだろう、幾つゲレンデやジャンプ台を手作り(機械もブルドーザーもない状況です)したのだろうと思うと、信じられない思いで一杯です。その合間には120%のちからでスキーの練習をし、膝をしょっちゅう脱臼し、骨折し、また移動し、家を建て、の繰り返し。同じ人間という生き物だろうか。

全部手作りで、全部自分の考えで工夫して、ただスキーだけに向って生きる。普通の生活をしようだとか、安定した生活をしようだとか、そんな言葉は全然ない。猪谷さんはスキーに巡り合っていなくても、やっぱりこんな生活だったんじゃないかと思うのです。わたしはそれに凄く衝撃を受けました。

編み物を始めると糸から作りたくなって、今は羊毛を染めて糸から紡ぐことをやっているのですが、そのうち羊を飼っちゃう人がいるとか笑い話のような本当の話があります。猪谷さんも同んなじ世界だなぁ。

驚くのは、スキーのような西洋のスポーツに捧げた生活について書かれた本が、戦時中の昭和18年に出版されたということ。こういう何もないなかで工夫した生活が、戦時中に参考になるはずだという無理くりの理由付けがされたらしいですが。お陰で今日わたしが読めているので、ありがとう。

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