February 08, 2010

Risks

この週末に届いていた土井さんのビジネスブックマラソンではユニクロ進化論という本が取り上げられていました。ユニクロ本は幾多ありますが、これはジャーナリストが積年の取材を経て書いたという一冊。中で気になったのが「ユニクロ十か条」なるリストに入っていた「リスクテイク」です。

折りしも先週にThe New Yorker という雑誌にMalcome Gladwellが寄せた最新の記事を読んだところで、そのテーマがまさに「リスクテイク」についてでした。

GladwellはThe New Yorkerの定席記者(普通に社員というべきか)で、Tipping PointやBlink!などのベストセラーを持ち、社会学的・心理学的に面白そうなネタについて取材をもとに書き起こすスタイルで知られています。

さて、この最新の記事が云わんとしていることは、一般的には一番リスクを恐れないと思われているアントレプレナー(の中でも長期的に成功しているグループ)がいかにリスクアバース(リスクを極力避けようとするポジション)であるかについて書かれています。大きなリスクだと普通の人が考える行動は実は彼らにとっては非常に堅実なポジションで、逆にリスクを極小にするための選択をしているに過ぎない。ただ、普通の人と違う見方ができる人たちだ、という議論です。

もちろん、「成功しているアントレプレナー」という定義が非常に難しく、今この瞬間に成功しているだけかもしれないし、そもそもどうやって対象を選ぶのかという問題はあるのですが、ただ、直感的にいうとこの分析は正しいように思えるのです。

事業をやっている人が一生のうちに大きく一発当てるということは、実は難しくない。ある一定の確率で当たりも来るし、同じだけ大きな損もします。リスクを取っている人というのは、それの繰り返し。「今回は運が悪かった」とういことで次回もまた同じような行動を取りがちです。当てた直後をみると成功しているように見える。でも、長期的に成功して富を築いている人たちをみると、実は本人たちにとって賭けをしている意識はまったくなくて、逆に一番の安全策を取っている。しかも、それが安全かどうか非常な執着心をもって検証し、完璧に検証されるまではノイローゼになるくらい不安でたまらない人たちだというのです。ただし、普通の人たちは何故それが安全策なのか理解ができないので、リスクをとってとっぴな行動を取っているように見えるらしい。しかも、これらのアントレプレナーたちは大抵、自分のお金を使うことを極力避けます。

最近の例で言うと、金融危機以前にCDSの保険を大量に買い集めていたある資産管理会社のオーナーです。CDSが破綻しない限りは、一見大金と思える保険料を払い続けるばかり。それを売る側だった銀行などの担当者は「こいつおかしいのか」と社内で話していたとのこと。でも彼からすれば、こんな破綻が間違いない金融商品の保険を買うことほど確実な投資はなかったそう。また実際に投資する以前に様々なシミュレーションをして何が起こるかを検証していたらしいです。

投資家だけではなく、他にもアメリカでは有名らしい事業家の例も紹介されています。

リスクを恐れない、ことが良いことのように語られ益々奨励される世の中(とくにアメリカでは)ですが、成功するためにはその逆を行くほうが良い、というのは面白い議論です。

サイエンティストではなくジャーナリストであるGladwellなので時には極端な例や議論などもありますが、考えるタネを与えてくれるという点で大好きなライターです。この記事を紹介したいのですが、購読者でないとウェブサイト上ではサマリーしか見ることができません。読みたい人には現物をお貸しします。

もうひとつ。簡単にリスクを取ると言いますが、そもそもどんな行動なのか深く考えたことが無かった。ちなみにユニクロに関して言うと、柳井さんが本当にリスクを取ることを奨励しているのか疑問。

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